スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

カテゴリ:- | | - | -
ジョン・エヴァレット・ミレイの「オフィーリア」
昨年12月半ばから、今年の1月にかけてお休みをしていましたが、また再開させていただきます。今回からは、以前と少し趣きを変えて、作家別に回を重ねるのではなく、作品ごとにスポットをあてていきたいと思います。

読者の皆さんにも、忘れられない作品、感動した作品、謎のまま気にかかっている作品などそれぞれにおありかと思います。ここでは筆者のそのような、印象深い作品をしばらくの間、追っていく予定です。

さて、今回はその一番手としてジョン・エヴァレット・ミレイの「オフィーリア」を観ていきたいと思います。この作品のファンの方は、数多くいらっしゃるのではないでしょうか。









ジョン・エヴァレット・ミレイ作 「オフィーリア」1852/ロンドン・テート・ブリテン



この「オフィーリア」は、ロンドンのテート・ブリテンで最も人気のある作品のひとつです。作者は、ラファエル前派の画家のジョン・エヴァレット・ミレイで、「オフィーリア」は彼の代表作として有名です。制作は1852年、作者が23歳のときの作品です。

古風な中世の衣服をまとった若い女性が、まだ生死の境を彷徨っているのでしょうか、半開きの目の虚ろな表情で、透きとおった川の水面に漂っています。両腕は力なく、水の浮力のままに左右に開かれています。長い髪の毛は、水草のように水中に漂い、手前の本物の水草は鮮やかな緑色が際立っています。そして辺りには、オフィーリアの哀しい不幸な出来事を、まるで哀悼するかのように自生の花々が咲き、さらに自らが摘み取った野の花が、華やかに身の周りを飾っています。

初めて、この「オフィーリア」の実物に出会ったときは、本当に息が止まるような、衝撃をうけました。清冽な水、緑の草木ときれいな花々に取り囲まれた、水面に浮ぶ若い女性、異様な光景が眼に飛び込んできたのです。時間が止まったような静寂と、冷たい水と空気が、その女性が死に瀕していることを伝えてくれるまで、しばしの時間が必要でした。

そして我に返って今度は、人の死際がこんなに美しく描かれていいのか、という疑問が湧いてきました。非常に写実的に描かれているためか、オフィーリア自身は、際立った美人でないにもかかわらず、画面全体の印象からか、美しきオフィーリアの死が痛々しく、そして神々しいものに感じられました。






シェークスピアの「ハムレット」に登場する、悲劇のヒロイン、オフィーリアの死を主題にしていますが、ミレイは、狂気のオフィーリアが木の枝から落ちて、川に落水するという不幸な出来事を再現するというより、落水の後に、水面を浮き沈みしながら流されていくオフィーリアの、生と死のはざまを行き来する残酷な事実を、リアルにかつ美しく描こうとしたのではないでしょうか。

作者の意図は成功していると思います。この絵を観るものは誰もが、オフィーリアの悲劇を、凡庸の想像を超えた感動的なイメージで、垣間見ることができるからです。






サー・ジョン・エヴァレット・ミレイ (Sir John Evelett Millais) は、1829年6月8日に生まれ1896年8月13日に亡くなったそうです。19世紀のイギリスの画家で、ラファエル前派を立ち上げた画家として有名です。イギリス南部のサザンプトンで、富裕階層の家に生まれ、僅か11歳でロイヤル・アカデミー付属美術学校に入学を許され、19歳のときにラファエル前派を結成し、以後イギリス美術界の中心人物として活躍しました。「サー」の称号は、1885年にそれまでの功績に対して、画家としてはじめて与えられたものです。さらに最晩年にはロイヤル・アカデミーの会長となりましたが、半年後に亡くなったそうです。

ラファエル前派 (Pre-Raphaelite Brotherhood) は1848年に、イギリスのロイヤル・アカデミー付属美術学校の学生であった、ジョン・エヴァレット・ミレイ、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ウィリアム・ホルマン・ハントの3人が、芸術上の主義、主張を明らかにするために結成したグループの名前です。ラファエルの古典主義は、当時のアカデミーにおける規範になっていましたが、そのような理想的な規範に従うのではなく、ラファエル以前の美術、初期ルネサンスや15世紀の北方美術にもどり、文学や宗教、神話や伝説を写実的に表現しようとしました。

「オフィーリア(Ophelia)」は、シェークスピアの四大悲劇のひとつ「ハムレット」の第4幕7場で語られる悲劇のヒロインの死を、主題に制作されています。恋人のハムレットに父親を殺され、狂気となり、花輪を柳の枝にかけようとして枝が折れ、川の水面に落下し、流されながら水底に沈んでいく話からきています。実際に舞台で演じる場面はなく、王妃のガートルードの台詞で表現されるだけですので、かえって想像力をかきたてられたのでしょうか、多くの画家たちがその様子を絵に描いています。



ドラクロワの「オフィーリアの死」


ユジェーヌ・ドラクロワ作 「オフィーリアの死」1853/パリ・ルーヴル美術館

ドラクロワ(1798ー1863年)の「オフィーリアの死」が描かれたのは、ミレイの作品とほぼ同時期の1853年です。折れた枝を、まだ掴んでいるオフィーリアは、一瞬正気に戻ったのでしょうか、眼を見開いて、小川の流れに身を任せようとしています。劇的な場面を切り取ったように、描いています。ミレイの静的な表現と好対照です。



カバネルの「オフィーリア」


アレクサンドル・カバネル作 「オフィーリア」1883/個人蔵

印象派の画家たちを、官選(サロン)展から締め出した人物として有名なカバネル(1823ー89年)が描いた「オフィーリア」です。美しいオフィーリアが、折れた柳の枝とともに、川に転落するさまが描かれています。不意の出来事にもかかわらず、オフィーリアの手や表情は、演技のポーズをとっているように感じます。


他にも数多くの画家が、オフィーリアを題材に作品を残しています。しかしながらミレイの「オフィーリア」を観た後では、どの作品のオフィーリアも作り物に見えてしまいます。









カテゴリ:ラファエル前派 | 15:10 | comments(5) | -
| 1/1PAGES |