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ギュスターヴ・モローの「出現」
 
今回の作品は、ギュスターヴ・モローの「出現」です。その神秘的な主題といい、精妙な描写といいユニークな作品ですが、どこか懐かしい雰囲気をもった絵です。






ギュスターヴ・モロー作 「出現」1876頃/パリ・ルーヴル美術館



オリエント風の衣裳をまとった舞姫が指さす先には、血がしたたる生首が宙に浮いています。生首からは後光が、眩しいばかりに放たれています。突然に出現(L'Apparition)した聖なる生首によって、その場が一瞬にして凍りついた情景が描かれています。

この絵の主題は、新約聖書の話からとられています。ユダヤの王ヘロデ・アンティバスは、自らの誕生日の祝宴で、姪でありかつ継子のサロメが舞う踊りが素晴らしかったので、その褒美として、サロメの望むものを求めました。サロメは実母の王妃ヘロディアから、獄中の洗礼者ヨハネの首をといわれ、王にそのように願い出ました。王は願いを聞き入れて、ヨハネの首を銀の盆に載せてサロメに持ってこさせたのでした。

この主題は、ルネサンス以前から多くの画家によって描かれています。その多くは、ヨハネの首がのった盆を持つサロメを描いたものです。これは、新約聖書にも確かに記述されています。それに対しモローは、サロメが踊りを舞っているときに、ヨハネの首の幻影が、突然現れるさまを描いています。このことは、サロメの意識にだけ起こっていて、背景の王や王妃、そして楽器の演奏者や衛兵などは、気がついていないようです。

サロメの衣裳や、建物の壁に描かれた文様は、古代インドの衣裳や文様を想わせます。とくにサロメが身に纏った衣裳は、精緻を極め、幾百の光り輝く宝石によって飾られています。暗闇から浮かび上がるサロメと光りを放つ生首、この神秘的な画像は、当時の多くの文学者や芸術家を刺激し、19世紀末の芸術を大いに花開かせることになりました。

1893年に、オスカー・ワイルドが戯曲「サロメ」をフランス語で発表しています。翌年の英語版にはオーブリー・ビアズリーの挿絵が添えられ、1896年にパリで初演されています。これらは、世紀末芸術に一定の方向、すなわち神秘的、幻想的、退廃的、異国趣味的な傾向を決定づけることになったといわれています。そしてその先行する原型イメージとして、モローの諸作品、なかんずくこの「出現」が挙げられています。



ところで、このルーヴル美術館の「出現」は、水彩で描かれています。日本画の水彩のイメージとはほど遠く、精緻な描写と鮮やかな色彩が目立っています。重ね塗りのような深い色合いも見られます。水彩画の奇跡的な大傑作といわれていますが、まさに同感です。モローは、同時期に油彩画の「出現」もいくつか残しています。そのひとつにギュスターヴ・モロー美術館の「出現」があります。




ギュスターヴ・モロー作 「出現」1876頃/パリ・ギュスターヴ・モロー美術館


ルーヴル美術館の「出現」は、105×72cmの大きさですが、この「出現」は、ふたまわりほど大きく、142×103cmの油彩画です。宙に浮くヨハネの生首は、いっそうの光りを放っています。宮殿内部は大きく描かれ、全体に勢いのあるタッチで奥行きのある空間が感じられます。さらに柱の輪郭や壁のアラベスク風の文様が、白線で浮き出るように描かれ、神秘的な空間を大きく醸し出しています。

この作品は1876年のサロンに出品されて、大評判をよんだようですが、ルーヴル美術館の水彩画版に比べると、完成度が低いような気がします。それほどに水彩画版の精密さが際立っているのでしょう。なお水彩画版は、1878年のパリ万国博覧会に出品されたそうです。




ギュスターヴ・モロー(Gustave Moreau)は、1826年に建築家を父に、音楽家を母に、パリで生まれました。1898年パリで亡くなっています。享年72歳でした。印象派の画家たちと同時代に活躍した画家ですが、自然をそのままに描くことなく、聖書や神話を題材にとり、想像力を駆使した幻想的な世界を生涯をかけて描きました。象徴主義の先駆的な画家として、世紀末の芸術家たちに大きな影響を与えました。晩年はエコール・デ・ボザールの教授となり、多くの才能を育て、マティスやルオーの2大巨匠が生まれています。


象徴主義(Symbolisme)は、19世紀後半にフランスにおいて文学運動から始まり、美術運動としては、写実主義や印象派の絵画に対して、精神活動の表現を追及しようとする絵画を主張する運動をいいます。神秘的で、幻想的な形態、線や色彩を駆使して、暗示的、象徴的に、宗教や神話あるいは感情や心象を表現します。代表的な画家としては、モロー、ルドン、シャヴァンヌ、クノップフ、ゴーギャン、クリムト、ムンクたちを含むこともあります。


世紀末芸術は、19世紀末の時期に現れたさまざまな芸術をいい、それらの中で共通する傾向をとくに備えている芸術をさしています。象徴主義の諸絵画をはじめ、ロートレックやミュシャのポスター、ガレやドーム兄弟のガラス工芸、オットー・ワグナーやガウディの建築などを含みます。総じて官能的で、退廃的、グロテスクな表現で、作者の心的内面を描き出そうとしました。







カテゴリ:象徴主義 | 09:25 | comments(0) | -
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