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エドガー・ドガの「アプサント(カフェにて)」
 
今回は、ロートレックの師匠格の大画家、ドガの代表作「アプサント(カフェにて)」です。ドガは、印象派展にほとんど欠かさず出品して、印象派の画家といわれていますが、その画法は、印象主義的な手法を採らずに、伝統的なデッサンを重要視して、外光よりも室内の光で描くことが多かった画家といわれています。この作品は、第3回の印象派展に出品された作品です。





エドガー・ドガ作 「アプサント(カフェにて)」1876/パリ・オルセー美術館




ドガといえば、“踊り子の画家”といわれているように、バレエの踊り子を描いた数々の作品で知られています。もちろん肖像画や裸婦像、競馬場の絵でも、多くの傑作がありますが、この作品は、それらの中でも実にユニークな作品として挙げられます。ご覧いただいたように、絵の中心がずれているようですし、描かれている人物は、けだるい表情で、視線が定まっていません。いったい何を描こうとしているのでしょうか。伝統的な絵画はもちろん、同時代の諸作品と比べても、印象に残る不思議な絵です。

印象派展に出品したころには、「カフェにて」という画題だったそうで、ある朝の、とあるカフェの片隅が描かれています。女は商売を終えた娼婦、男はその客のようです。女の前にあるのは、アプサントというリキュールの水割り、男は、マザグランという冷しコーヒーの一種を前に置いてます。左のテーブルには水差し、新聞などが置かれていて、人気の少ない、朝のカフェの様子がよく伝わります。二人の間の、鈍く、虚しい雰囲気が、効果的に描き出されています。

発表当時は、大変評判が悪い絵だったようです。たしかに、いくら都会の一断面をリアルに写した作品とはいえ、絵の主題としては適切とはいいがたいでしょう。にもかかわらず、斬新な構図で、その場の空気を、一瞬の時間を巧みに表現していて、多くの印象派の画家たちが、外光のもとで自然の様相を写し出したように、早朝のカフェにおける特殊な人間関係、その心理状態を写し出しているように思います。

絵のモデルには、ドガの友人たちが起用されていて、女優のエレン・アンドレと、版画家のマルスラン・デブータンといわれています。女優は娼婦役、版画家はその客、あるいは、女のヒモを演じているわけです。

人物の配置が、右上に偏っています。左下は、テーブルが多くを占めています。構図としては、西洋の伝統的なものではなく、当時流行したジャポニスムの影響から、非対称の構図が大胆に採り入れられています。さらに、全体に詳細を描かずに、大きな筆使いが目立ちます。雰囲気の描出を重要視しているようです。よく観ると、テーブルの脚が描かれていません。忘れたのでしょうか。それとも、細部を正しく描くことより、全体の効果的な表現を優先し、あえて省略したのでしょうか。






エドガー・ドガ(Edgar Degas)は、1834年、パリに銀行家の息子として生まれ、1917年に亡くなっています。享年83歳でした。本名はイレール・ジェルマン・エドガー・ド・ガス(Hilaire Germain Edgar de Gas)ですが、ド・ガスという貴族風の姓を嫌い、ドガと称したそうです。1855年、21歳のときに、エコール・デ・ボザール(官立美術学校)に入り、絵の修業を本格的に始めます。1856年から3年ほどイタリアに留学して、古典美術を学んでいます。1865年には、歴史画でサロン(官展)に入選しています。1862年にマネと知り合い、1874年からの印象派展にも、第1回から第8回まで、第7回を除いて、連続して出展しています。しかしモネたちのような外光の自然を写そうとする、印象派の画家たちとは一線を画して、古典的な描法で都会生活を描くことに終始しました。印象派画家たちと同じく、北斎や広重の影響が指摘されています。室内の情景を多く描き、とくにバレエの踊り子の一瞬の動きをすばやく捉える、デッサンやパステル画が有名です。


アプサント(absinthe)は、フランス語でニガヨモギという薬草のことですが、むしろ多くは、それを主原料にして作られる薬草リキュールのことを指します。アルコール度数が高く、70%前後で、水を加えると白濁します。19世紀末の芸術家たちに愛好され、作品の題材にもとりいれられています。中毒作用があり、ロートレックは身体を蝕まれ、ゴッホは、その幻覚作用のせいで、耳を切り落としたそうです。中毒患者や犯罪者が多発したため、20世紀初頭に製造禁止されましたが、現在では成分の条件付きで、容認されています。


マザグラン (Mazagran)は、アルジェリアの地名で、この地で飲まれていた水で薄めたコーヒーが、フランスに伝わり、19世紀末に、冷しコーヒーをさすフランス語になったそうです。熱いマザグランもあり、ブランデーやワインを加えたりします。早熟の天才詩人アルチュール・ランボーの詩集「イリュミナシオン」のなかで、“マザグランが、小喫茶店で湯気を立てた”と登場しています。


ジャポニスム(Japonisme)は、19世紀のヨーロッパにおける、日本の美術・工芸の愛好、さらには西洋文化における日本の芸術文化からの影響をいいます。絵画、工芸、建築などの造形分野、とくに印象派絵画やアールヌーボー、世紀末美術に与えた影響は大きいといわれています。その後の1世紀おいて、西洋美術は、抽象主義や現代美術に発展することになりますが、ジャポニスムは、その流れの発端を担ったとされています。













カテゴリ:印象派 | 12:04 | comments(1) | -
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コメント
この絵は、あまり好きな絵とはいえませんが、ムッシューP様の解説がとても面白く、引き込まれて読んでしまいました。(へぇ〜、そうなんだって感じで)

このような解説は美術館ではしてくれないでしょうね。

画家の解説だけではなく、登場している関連のものの解説付きで、
この美術館はちょっとした雑学美術館のようでもあります。

楽しいです。
| sino | 2010/01/13 11:31 PM |
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