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ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌの「貧しき漁夫」
 
今回は、クールベやマネと同時代で、壁画作家として活躍したシャヴァンヌの油絵「貧しき漁夫」です。どこかでご覧になったことのある作品ではないでしょうか。パリのオルセー美術館に展示されていますが、同名の作品が、上野の国立西洋美術館にもあります。






ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ作 「貧しき漁夫」1881頃/パリ・オルセー美術館




小舟の上で、貧しげな漁夫が頭を垂れて、神に祈りを捧げているかのように、たたずんでいます。静かな川面に、小舟の影が映っています。川は遠くまで、緩やかに蛇行しながら、海に続いているのでしょう。柔らかな光りの中で、静かに時間が流れています。祈りの情景は、農夫たちが、夕べの鐘が鳴り響くなか、祈りを捧げている、ミレーの「晩鐘」を思わせます。漁夫が祈っている時刻は、やはり夕方なのでしょう。漁の獲物は、どこにも見当たりませんが、降ろしている網に漁獲があるように、祈っているのかもしれません。あるいは、僅かでも収獲があったことに、感謝の祈りを捧げているのでしょう。

画面は、中間色の柔らかいトーンが全体にいきわたり、静謐で敬虔なムードにあふれています。広々と奥行きのある遠景が、漁夫一家の孤独な情況をことさらに強調しています。無邪気な子供たちのようすが、さらに漁夫の切実な情感を、観るものに想像させます。このように宗教的な、感情的な想いを起こさせることが、作者のシャヴァンヌの、この絵に込めた意図とすれば、その目的はじゅうぶんに達成しています。この信心深い漁夫の姿に、忘れがたい印象をもつひとは、数多くいるように思います。

シャヴァンヌが、この作品を制作した当時は、印象派の画家たちが活躍していた時代で、異端視された印象派の作品も、次第に認められるようになってきていました。シャヴァンヌは、彼らの活動とは一線を画して、目には見えない精神的なものの表現を、重要視していました。後のルドンやゴーギャンに代表される、象徴派の画家たちの先駆者としての役割を、まったく作風は異なるギュスターヴ・モローとともに、果たしたといわれています。シャヴァンヌは、パリのパンテオンや、リヨン美術館などの壁画の作者として有名ですが、この一枚の絵によっても、その創造的な才能を強く感じさせます。

ところで、画面の右側で、赤ん坊が眠り、少女が花々を摘み取っています。シャヴァンヌは、妻を亡くした貧しい漁夫だけでなく、一緒に残された二人の子供を描いたのです。悲惨な状況は、想像以上です。この絵の解説の中には、花を摘んでいるのは、漁夫の妻とする説もあります。しかし、オルセー美術館の公式ホームページの解説では、妻を亡くした漁夫と二人の子供たちとしています。シャヴァンヌ自身も、この絵は、妻を亡くした貧しい漁夫を描いたと、説明しているそうです。






ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ作 「貧しき漁夫」1881頃/東京・国立西洋美術館



オルセー美術館のと、この国立西洋美術館のと、どちらが先に制作されたか、調べられませんでしたが、どちらの作品も、その寂莫とした情景は同じです。作者の意図に変わりはないと思います。見方によっては、少女がいないこちらの作品の方が、悲惨な状況といえます。小舟の中で眠る赤ん坊。父親は、ひっそりと岸辺で、収獲があまり期待できない魚獲りをしているのでしょう。





ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ(Pierre Puvis de Chavannes)は、1824年、フランス南東部に位置する、絹織物・繊維産業および金融の中心地のリヨンで、織物業の名家に生まれ、1898年にパリで亡くなっています。享年73歳でした。少年期をリヨンで過ごした後、パリに出て当時の画壇の大家トマ・クチュールに師事したそうです。トマ・クチュールの弟子には、マネやファンタン・ラ・トゥールもいます。その後、イタリアに病気療養のため旅行したときに、フレスコ画に魅了されて、その表現法や色調を大いにとり入れたといわれています。とくに、ナポレオン3世が行ったパリ改造計画により、大建造物が建て直されて、壁画や装飾画の要請が多くあり、古典的な作風のシャヴァンヌの活躍が目立ったようです。その作風は、スーラやゴーギャン、カリエール、ルドンと多くの画家に影響を与え、象徴主義の先駆者のひとりといわれています。


象徴主義(Symbolisme)は、19世紀後半にフランスにおいて文学運動から始まり、美術運動としては、写実主義や印象派の絵画に対して、精神活動の表現を追及しようとする絵画を主張する運動をいいます。神秘的で、幻想的な形態、線や色彩を駆使して、暗示的、象徴的に、宗教や神話あるいは感情や心象を表現します。代表的な画家としては、モロー、ルドン、シャヴァンヌ、クノップフ、ゴーギャン、クリムト、ムンクたちを含むこともあります。









カテゴリ:象徴主義 | 09:22 | comments(0) | -
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