<< ジャン=オーギュスト・ドミニク・アングルの「ドーソンヴィル伯爵夫人」 | main | ジャン・オノレ・フラゴナールの「マリー=マドレーヌ・ギマールの肖像」 >>
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

カテゴリ:- | | - | -
フランシスコ・デ・ゴヤの「イザベル・デ・ポルセール」
 
前回は19世紀フランスの貴婦人の肖像画を観ましたが、今回はフランシスコ・デ・ゴヤによる、スペインの上流階級の夫人の肖像画「イザベル・デ・ポルセール」です。



フランシスコ・デ・ゴヤ作 「イザベル・デ・ポルセール」1804-05/ロンドン・ナショナル・ギャラリー



19世紀スペイン・ロマン派絵画の巨匠フランシスコ・デ・ゴヤは、肖像画の名手として知られています。1789年ゴヤ43歳の時に、カルロス4世の宮廷画家になっています。1792年に聴力を失ってから、「裸のマハ」「カルロス4世の家族」「着衣のマハ」「マドリード1808年5月3日」「巨人」などの傑作を生みだしています。この「イザベル・デ・ポルセール」を制作したころのゴヤも、地位、名声ともに絶頂期にあったのではないでしょうか。生き生きとして逞しい、そして凛とした女性像からも、その熟達ぶりがうかがい知れます。

この作品は、ゴヤがグラナダに滞在した折に、カスティーリャ審議会員のアントニオ・ポルセールから受けた親切に対しての返礼として、その夫人の肖像を描いたものとされています。経緯はどうあれ、現在ロンドン・ナショナル・ギャラリーで、女性ながら威風堂々とした光を放つ姿は、ゴヤ自身が実際にモデルとして夫人に接したときの感動が、そのままに伝わってくるような迫力のある肖像画です。

身体は右側に4分の1斜めに向け、顎と首の輪郭を露わにしながら、顔は逆方向の左に90度向けています。女性の肖像画にしてはめずらしく、意志の強さをあらわすような大胆なポーズです。肉感的な身体付き、黒い衣装に映える白い肌、大きな黒い瞳、鮮やかな紅い唇、頬と耳は紅潮しています。顔にかかる栗色の巻き毛、頭から両肩、胸部にかけて纏いつく、黒い透かし織りの絹のショールなどが、夫人の成熟した女性の魅力を、いちいち強調しているかのようです。

堀田善衛(1918-1998、小説家・評論家)の代表作のひとつに、『ゴヤ』4部作(集英社文庫)がありますが、その敬堯峙霓佑留討法廚痢醗酌イ燭覦意”の章に、「イザベル・デ・ポルセール」に触れた部分があります。まず第一に来るのは、それはどうしても誇り高いアンダルシーア女の代表であるイサベル・デ・ポルセール像でなければならないであろう・・・眼はもとより、肉体の内部から深い生気が溢れ出ているという事は、この絵のような人間、女性のことを言うものであろう・・・実にかくも生気溌溂として生命力に満ちたものは稀である・・・生命力とは、なるほどあんたのことでしたか、とひとり呟かざるをえなかった、などと評しています。




フランシスコ・デ・ゴヤ作 「サバーサ・ガルシーア」1803-06/ワシントン・ナショナル・ギャラリー



堀田善衛は続けて、イザベル・デ・ポルセール像の次に来る女性を紹介しています。「サバーサ・ガルシーア」のことです。ポルセール夫人とはまったく別個の、しかしやはり女性像としてのゴヤの傑作の一つである、としています。

簡素で決して豪華に見えない衣装に身をまとったこの女性は、伸ばした背筋と黒い大きな知的な瞳が印象的です。そして何よりも、堀田善衛も指摘しているように、現代的な雰囲気をもっていることです。「イザベル・デ・ポルセール」とは対照的な女性像ですが、描く対象に肉薄し、その生き生きした人間像を描き出す、ゴヤの画家としての力に、そして人間を観察する力に感服させられます。




フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス(Francisco José de Goya y Lucientes)は、1746年に、スペイン北東部のフエンデトドスというところで生まれ、1828年にフランスのボルドーで死去しています。地元で絵の修業をした後、1774年にマドリードに出て、王立タペストリー工場の下絵描きの仕事を長年にわたりつとめます。1786年国王付きの画家に任命され、1789年にカルロス4世の宮廷画家になり、画家として頂点を極めますが、1792年に病気から聴力を失います。1807年ナポレオンの仏軍がスペインに攻め入り、1808年から1814年にかけてスペイン独立戦争になり、「マドリード1808年5月3日」や「巨人」などが制作されています。1819年にマドリ−ド郊外に通称“聾者の家”という別荘を入手し、「黒い絵」といわれる14枚の壁画を制作します。1824年には、フランスのボルドーに亡命し、1828年に82歳で亡くなります。


カテゴリ:ロマン主義 | 10:48 | comments(0) | -
スポンサーサイト
カテゴリ:- | 10:48 | - | -
コメント
コメントする